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2005年10月 8日
平様はお強いお方

実は私は小食なのである。
みんなから意外だと言われるのであるが、どう言われようが事実なのである。
飲み会に行っても生ビールを1杯以上飲むことはまずない。
どうもこの体型から大食漢でうわばみのように酒を飲むイメージがあるらしいが、心外である。人を見かけで判断してはいけないのである。

つい先日も、事務所の近くの定食屋さんで昼食を注文しようとしたところ、毎度毎度「大盛りできますよ」と聞かれるのである。
私がこの定食屋さんにいったい何年通っているのか、店員さんもそろそろ学習してもらいたいのである。私がかつて一度でも「では、大盛りをお願いします」と言ったことがあったか!!
居酒屋でも、なぜニッコリと微笑みながら「飲み放題もありますよ」と私に言うのであろう。ビールを飲むよりコーラを飲む割合の方が多い私に向かってである。
ファミレスのドリンクバーの飲み放題はありがたいが、居酒屋では私はいつも割り勘負けをする負け組なのである。

負け組と言えば腹が立つのがバイキングである。
小学生の子供たちは、なぜあのように異様にバイキングを好むのであろう?
子供たちに促されてついついバイキングに行ってしまうことがあるのだが、私はかねがね、バイキングとは店の経営者の思惑とそれにはまってなるかという客との壮絶な戦いの場であると思っている。
そのあたりにぬかりのないうちの奥様は、いつもバイキングの目玉商品を目ざとく見つけて、決して経営者の術中にはまることなく元をとっている賢い嫁なのだが、この私ときたら、いつも経営者の思惑にまんまと乗せられてしまうのである。

バイキングで決して食べてはいけないもの、それはカレーとスパゲティとお寿司類であろう。カレーとスパゲッティは言わずもがな、握り寿司にしてもほとんどがマグロ、イカ、タコ、巻き、いなり寿司などが定番のラインナップである。
ウニ、イクラ、貝類などはお目にかかったためしがない。
子供たちは、ついついこのカレー、スパゲティ、寿司の方に流れてしまうのであるが、「わーい、わーい、カレーだ!カレーだ!」という息子の歓声に共鳴してしまい、普段カレーなど食べようと思わない私もついつい「ん?ちょっと食べてみようかなぁ」とものの見事にひっかかってしまうのである。

イタリアン好きの娘から「パパもスパゲッティ食べる?」と聞かれると、ついつい「じゃあ、お願いしようかな?」と言ってしまうのである。「じゃあ、パパは大人だからいっぱいね」と笑顔で取り分けられると、拒絶できようか?
そして、私の大好物はいなり寿司なのである。
しかも、私は先ほども書いたように小食なので、これだけで満腹になり、後は、コーヒーを飲むしかないのである。
毎度毎度、見事に経営者の術中にはめられてしまい、バイキング負け組になり続けているのである。
しかしながら、これだけバイキング店に貢献している私なのに、いつも入店時には店員ににらまれるのである。とても心外である。


さて、とりわけこの種の誤解や偏見が多い私の人生なのであるが、今日はものすごい誤解を受けたであろうと推測される話をひとつ書く。

今でこそ、東京にもカウンセリングルームを持つ神戸メンタルサービスであるが、その昔、東京にカウンセリングルームがなかった頃、私はホテルの一室でカウンセリングをしていたのである。
当時は、巨大シティホテルのツインかダブルルームを借りて、本当はいけないかもしれないのだが、2人分の料金を払っているのでよかろうと勝手に考え、ホテルの一室をカウンセリングルームとして利用していたのである。
毎月、約10日ほど、東京に出張し、カウンセリングを朝9時からは3時間毎に3本、そして夜はメンタルの講座をするというのが、東京での私のスケジュールであった。

多くの人は、「カウンセリング」というと、ただクライアントの話を聞くだけだろうと思っていらっしゃるのではないだろうか?
しかし、当社のカウンセリングは、2時間のカウンセリングのうち、1時間はクライアントのご相談を聞き、残りの1時間はヒーリングセッションというものをするのである。
ヒーリングセッションという言葉も聞きなれない方も多いと思うが、問題を作っている潜在意識や無意識にアプローチしてそれを癒すといったことをしているのである。
このヒーリングセッションでは、大泣きしてしまわれるクライアントが多いのである。
泣き方も人それぞれ。多くのクライアントは日ごろからいっぱいいっぱいがまんをしていろんな感情を心の中に溜め込みすぎていらっしゃるので、一度、感情が出始めるとまるでダムが決壊したかのように大粒の涙とともに感情が爆発するのである。
その爆発の仕方も百人百様で、シクシク泣くお上品なタイプから、うめく、ほえる、叫ぶなどさまざまなスタイルがあるのである。
そのため、当社のカウンセリングルームには、ティッシュが必需品である。そのため、私は一日に何度もホテルの客室係にティッシュをお願いする羽目になっていたのであった。
このようなことは、我々にとってごくごく日常の当たり前のことなのであるが、あるとき大きな気づきがあったのである。

どのホテルもそうであると思うのだが、連泊している客の場合、ホテル側としては昼前に客室のお掃除をしたいようである。
ところが、私はその時間もドアのノブに「Don't Disturb」の札をかけ、掃除のための入室をご遠慮いただいて、部屋の中でセッションをしているのである。
そのため、私の部屋のドアの前の廊下をお掃除のおばさんが何度も何度も掃除機をかけて、「お掃除の時間ですよ」というオーラを飛ばしてくることが度々あった。

そんなときにこの事件が起きたのである。
その日も私は、部屋の中でカウンセリングをしていたのであるが、そのときのクライアントは21歳の女子大生であった。
彼女は良家に生まれ、しつけもきっちりされているとても良い子だったため、いつも親の期待通りに生きてしまい、自分のやりたいことが後回しになる、という典型的なお嬢さまタイプであった。
セッションを続けるうちに、彼女が本当にしたいことややりたいことを感じ始め、ようやく長年閉ざされていた彼女のハートが開きはじめた途端(これはカウンセリング現場ではよくあることなのだが)、彼女の胸が本当に痛くなってきたようなのである。彼女は、自分の胸を右手で叩きながら「痛い?痛い?」とうめき始めたのである。
その瞬間、ドアの外の掃除機の音がピタリと止まったのであった。

「ん?」と思った瞬間、タマール様が降りて来られたので、ふとお掃除のおばさんの目になって考えてみた・・・

ドアの外からは、中で何が起こっているかはわからないけれど、この部屋は怪しすぎる。平様は、1時間半ほど前に、うら若い女性を連れ込まれた模様。さらにその前には客室係に新たなるティッシュのご要望があった。そして今、客室の中からは、うら若い女性の「痛い?痛い?」といううめき声が・・・

私は、お掃除のおばさんに何と申し開きができよう。
しかし、私にはまだ救いがあったのであった。

これがもし、うら若い男性であったならば、いったい私はどういう立場に置かれるのであろう?


さらに新たなことにも気づいてしまった。
「そう言えば・・・平様は3時間毎に色んな人を連れ込まれます。それは、若い女性であったり、年配の女性であったり、たまには若い男性であったり、中年のサラリーマンであったり様々です。どうやら平様はオールラウンドプレイヤーのようでございます。
そして、入室して1時間くらい経つと平様のお部屋からは様々なうめき声が聞こえはじめ・・・そして、入室してちょうど2時間後には、どのお客様も上気した顔で平様に「ありがとうございました」と感謝を伝え、フラフラよろめきながらもなぜかスッキリした表情で出て来られるのでございます。
しかも、平様のお部屋のゴミ箱は、いつもティッシュだらけなのでございます。平様は本当にお強いお方のようでございます」
などと思われてしまう完璧な状況証拠が揃っているではないか・・・

この気づきが私に訪れたとき、私は「東京に事務所を持とう」と心から決めたのであった。

2005年10月 8日 00:00