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2005年11月19日
ズボンつりの秘密

6月のとある日のことであった。
その日私が講演会の仕事を終えて自宅に戻ったところ、いきなり我が息子に「「パパ、変!変なものを着てる」と言われたのであった。
普段であれば、このようなことは言われて慣れているので、別段気にもとめないような発言なのであるが、この日はいささか立腹した。
なぜならば、この日は講演会用にバッチシとスーツできめていたのであるから・・・
父親の父親たる威厳のある正装とは、やはりスーツであろう。
我が子にめったに見せたことはなかったが、この威厳あるスーツ姿を「変」と言われたら、私はいったい何を着ればよいというのであろうか?

一般の家庭では、お父さんのイメージ(心理学の専門用語で言うと、「印象形成」)は、スーツではないかと思う。
しかしながら、我が家では子供が小さい頃からあまりスーツ姿の私を見せたことがないので、どうやら変な格好に映るようである。
では、いったい我が子の父親の印象形成は、いったい何なのであろうか?
何を着たときに父親らしいと思うのであろうか?
私は疑問を抱いてしまったのである。

上着を脱いでみた。
「じゃあ、これではどうなの?」と言ったところ、我が息子は「うんうん、何かパパらしいと思う」と言ってくれたのである。
もちろん上着の下は、ネクタイとカッターシャツである。
鏡に我が身を映してみたところ、たぶん多くの父親がしていないだろう私独自のオリジナルのアイテムが一品あった。
そう、それは「ズボンつり」なのである。
世間ではおしゃれに「サスペンダー」と言うそうなのだが、私の場合、この体型ゆえベルトがまったく用をなさないので、ズボンをつりあげるという実用目的で使っているので「ズボンつり」と呼ぶのが正しいのであろう。

私はめったにネクタイをしないので、ネクタイ姿の私を変だと言ってもいいと思うのだが、我が息子はズボンつりを見て、我が父親と認識した模様である。
そこで臨床心理学者として実験をしてみることにした。

我が家に昔からあるとっても大きなトトロのぬいぐるみを持ってきて、我が息子に「これは何だ?」と聞いてみると息子は「トトロ」と答えた。
次にトトロにメガネをかけさせて「これは何だ?」と聞いてみたところ、「目が悪いトトロ」と答えた。
次にメガネをかけたままパンツをはかせて「これは何だ?」と聞いてみると、「変なトトロ!」と答えた。
そして、この状態のトトロにズボンつりをつけたところ、我が息子は「パパ」と答えたのであった。
「ム? ム、ム、ム、ム」
どうもうちの息子の中ではパパ=ズボンつりとなっているようである。

心理学では、ステレオタイプというのであるが、インド人といえば多くの人がターバンをイメージするように、インデアンと言えばウソつかないをイメージするように、我が息子にとってはパパのステレオタイプはズボンつりらしいのである。
ひょっとして私はとても長い間、誤解していたのかもしれない。
私のステレオタイプはずっとデブ、もしくはブタだと思っていたのだが・・・
それは、私一人が思っていることで実は、誰もそんなことを思っていないのではないだろうか?(*^O^*)ノ

こんなバカな実験をしていると(平家ではこういうことは日常茶飯事なのだが)、娘が我々の部屋にやってきた。彼女は私が面白いことをしているときにはなぜかいつもどこにいても嗅ぎつけてやってくるのである。
そしてすべてを察しているかのように、いきなり私にこう聞いてきた。
「ねぇねぇ、パパがもらう贈り物はなんでいつもブタさんばっかりなの?」
娘のいきなりの素朴な疑問に私は奈落の底にたたき落とされたのであった。
せっかく無理やりに「パパ=ズボンつり」と結論を出そうと思っていた矢先に娘に厳しい現実をつきつけられたのであった。

確かに受講生のみなさんからいただく贈り物の大半はブタ関係のグッズなのである。
蚊取り線香立ては言わずもがな、ぬいぐるみ、ライター、貯金箱、時計に至るまでみなさまからのいただきものはすべてブタなのである。

ところがである。
贈り物と言えば、ある種の人たちからの贈り物にはブタが一つもなかったことに気づいてしまったのである。
そう、なんと、外人からのいただきものはなぜかすべてズボンつりなのである。
私は1998年から3年間、夏はスイスの心理学のワークショップに行くことを常としていたのであるが、そのときに知り合いになった外人からの私へのプレゼントは一つの例外もなくズボンつりだったであった。
しかも、いただいたズボンつりのほとんどがこの私ですら派手すぎてつけられないほどの派手なズボンつりばかりだったのである。

ということは、我が息子の感性はインターナショナルなのであろうか?
外人から見た私のステレオタイプはブタではなくズボンつりなのであろうか?

そういえば、ズボンつりをしている外人をあまり見たことがないような気がする。
そういえば、外国ではうちの受講生がすぐしてくるような、私のおなかを触ったりなでたりすることもなかったような気がする。
ということは、私は外国ではデブだと認識されていないのであろうか(^-^)
確かに外人用の服は、私の体型はLで十分なのである。
ひょっとして我が息子もインターナショナルな感性を持っているとしたら・・・私は一縷の希望を胸に最後の実験を試みてみたのである。

トトロに代えて我が家にある頂き物の一番大きなブタのぬいぐるみを持ってきて、これにめがねをつけてみたところ、私が質問するまでもなく2人の子供が「パパ!」」と大声で答えたのであった。
私の一縷の望みが消え去った瞬間であった。

ブタにズボンつりといえば、しゃくにさわる出来事が一件ある。
昔、天下のホリプロさんと組んで、「コイブミ」という番組を9ヵ月やっていたことがあった。
最初の3ヵ月はタレントさんが出て司会をしてく、次の3ヵ月はカウンセラーの多田(現在は岡崎)が若いタレントさんに心理学を教えると言うコンセプトだった。
ところが最後の3ヵ月はあるアニメのキャラクターが若いタレントさんに心理学を教えると言うコンセプトに変わったのである。
ところが、そのキャラクターをプロデューサーもディレクターも私に教えてくれなかったのである。
放送を見たところ、「ピノン」という名前のブタがキャラクターでしかもそのピノンは、トレードマークにズボンつりをしていたのである。
pinon2.gif
そしてピノンのキャラクター紹介文にはこう書いてあるのであった。
「世界一もてるダンディーな子ブタを目指し、心理学者ドロン博士に弟子入り。生意気だがどこか憎めない」と。
どこかで聞いたフレーズである。
私がモデルでアニメキャラができたのはちょっぴり自慢なのだが、キャラがキャラなので子供にも内緒にしていたのである。
そして、今回実験の最後としてこのピノンの絵を子供たちに見せたところやはりすかさず
「パパ!」と大声で答えたのであった。

すべての実験と以上の事実をもって、私のステレオタイプはブタとズボンつりという結果になったのである。

時として真実というものは人を傷つけるものである。

2005年11月19日 00:00