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2005年12月10日
アンパンマンは君だ

年のせいであろうか、私は早起きなのである。
土曜日・日曜日は毎週ワークショップや講座があるので、どこかのホテルに
泊まっていることが多い。
枕が替わるとゆっくり眠れないタイプでもあるので、日曜日の朝などは5時半くらいに目が覚めてしまうことが多いのである。
そんなときに、テレビをつけてみても宗教番組くらいしかやっていないのであるが、関西ではこんな早い時間に、まだアンパンマンが放映されているのである。

色んなアニメがあるが、子供たちが一番最初に見るアニメはアンパンマンであろう。幼児には絶大なる人気を誇るのである。
我が子も2歳や3歳のときには、アンパンマンが大好きで、当時、平家にはアンパンマンが全巻ダビングして揃っていたのである。

子供が2歳くらいでまだ十分にしゃべれなかった頃、アンパンマンとパパが一緒になって、私は「パーパーマン」と呼ばれていたのである。
うちの奥さんは「なぜかしらねぇ?」と不思議がっていたのであるが、なぜ私がそう呼ばれていたかの原因を私は当事者としてはっきり知っているのである。

当時、奥さんが買い物や何かの用事で外出をして、私が子供たちの面倒を一人で見なければいけないときに、必ずアンパンマンに変身していたのである。
まず、奥さんの口紅を使ってほっぺたに赤い丸を描き、そして冬用の黒のタイツをはきTシャツを着て、タイツの上からビキニの海水パンツをはき、さらに風呂敷を首にくくりつけ、そして、頭には奥さんの小さめのタイツを目の上までかぶり、後ろでくくりつけると簡単にアンパンマンに変身できるのである。
その格好で子供たちと遊んでいたのである。
長い間うちの子供たちはパパのお仕事はアンパンマンだと思っていたのであった、だから私のことを「パーパーマン」と呼んでいたのである。
そして、「アンパンマンたいそう」や「アンパンマンのマーチ」「サンサンたいそう」なんかを子供たちと歌って踊っていたのである。

ある日のこと、私は町のビデオ屋さんにいたのである。
しかも、私がいた場所は、なぜか女性のお客さんがいなくて、18歳以上でないと入れない、入口にのれんがあるコーナーである。
色々とビデオを探索していると、なぜか2歳そこそこの我が息子がやってきたのである。男性の本能が息子をこのコーナーに引き寄せたのであろうか?

しかしながら、我が息子が一人で車を運転し、こんな郊外のビデオ屋さんに来るわけがない。ということは当然、うちの娘と奥さんもここにいるということになるのである。
またアンパンマンのビデオでも借りにやってきたのであろう。
しかし、なんとも間の悪いときに遭遇するものである。
この頃の子供たちというのは、ビデオ屋さんを迷路のごとく走り回るのである。わが息子もいつものように迷路で遊んでいるときに、パパと遭遇したのである。
「これはまずい」と思う間もなく、私がいるビデオコーナーの外から息子の名前を呼ぶうちの奥さんの声。
ところがうちの息子ときたら、パパと出会えたことがうれしくてこのコーナーに居ついてしまったのであった。

うちの息子を何とかこのコーナーから追い出そうとありとあらゆる手を尽くし、やっと「ママが呼んでるよ」とコーナーの外に送り出すことに成功した。
次に私がどうやってこのコーナーから脱出するか?という大きな課題に向き合おうとしたとき、せっかく追い出した我が息子が今度はなんと我が娘の手をひいてこのコーナーに入ってきたのである。

まだ十分上手にしゃべれていない声で我が息子が娘に「パーパーマン、パーパーマン」と叫びながら、我が娘にも何とかパパに出合わせてやろうと手をひいてやってきたのである。
なんともいじらしい兄弟愛ではないだろうか?
しかし、こんなところで兄弟愛を発揮してもらいたくはなかったのである!
娘が私にしがみついて喜びをあらわにしているとき、我が息子はうちの奥さんもパパと会わせてあげようと娘を後にこのコーナーから再び去っていったのである。

うちの奥さんが「走り回ってはだめよ。ママと一緒にいましょう」とうちの息子に言っている声が遠くで聞こえるのであるが、息子はママの手を引っ張って「パーパーマン、パーパーマン」と言いながらうちの奥さんをこのコーナーに連れてこようとしている模様であった。
ところが、うちの奥さんは、息子が「アンパンマンのビデオコーナーに行こう」と言っていと誤解した模様で、「アンパンマンはそっちじゃないのよ」とこちらの私がいるコーナーとは反対の方へ息子を連れて行こうとするのだが、我が息子は、意に沿わないママに愛想を尽かし、その手を振り切って再び私のいるところまで、ニコニコしながら戻ってきたのであった。

うちの奥さんは息子を追いかけて来たもののこのコーナーの前で立ちすくんでしまったのである。
そして、奥さんはまさかこのコーナーの中に私がいるとも知らず、このコーナーの外からなんとか子供たちを呼び戻そうと、一生懸命呼ぶのである。
「ダメよそんなところに行ったら、子供がいちゃいけないのよ。出てきなさい」
私もその意見にはまったく同感なのだが、うちの子は私から離れようとしないのである。
さらに困ったうちの奥さんは「早く出てきなさい。そんなところにいると変な人になっちゃうわよ」 (そんなこと言ったってもうなってます)
それでもママのところに行こうとしないうちの子たち。
さらに窮したうちの奥さんはやや怒った声で、「とにかく早くこっちにいらっしゃい!そんなところにいたらアホになるわよ!」 (うぅ?もう手遅れです)
これ以上、奥さんを困らせるのは本意ではないのだが、このシチュエーションで私はどの面下げて奥さんの前に出て行けばいいのであろう。私は出るに出られず困ったのであった。
さらにこのコーナーに私と一緒にいたほかの男性2人はすでに状況を把握した模様で、肩を震わせながら事態の推移を見守っているのであった。
私は絶体絶命の危機に見舞われたのであった。
そのとき、賢明なうちの奥さんがコーナーの外からうちの子供たちに言ったことは「ガチャポンしよう!ガチャポン!」
さすがのうちの子供たちも、この頃はガチャポンにはまっていたのでこの声に反応してすぐにこのコーナーから出て行ったのである。

私はこの隙をぬって、なんとかこのコーナーを脱出し、何食わぬ顔でガチャポンをしている奥様と子供たちのところに「お!来てたの?」と現れたのであった。

子供たちよよく覚えておきたまえ。アンパンマンは神出鬼没なのだよ。


2005年12月10日 00:00