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2006年1月28日
八甲田死の彷徨?天は我を見捨てたかぁ?

年始から2本続けて時事ネタを書いてしまったので、今回はラインナップに戻って書いてみたいと思う。
前回の「極寒の東北・罰ゲーム旅行」で八甲田のことを書いたのだが、私はこの八甲田山で、陸軍青森第5連隊が大遭難をした「八甲田死の彷徨」と呼ばれるような経験をしたことがあるのである。

思い起こせば、私は八甲田で毎回毎回、えらい目にあい続けているのである。
私の八甲田への訪問は、去年の年末の旅行で3回目であった。
「それがどうした!」と突っ込まれそうであるが、温泉に限って言えば、私はとても浮気性で節操のないプレイボーイなのである。

温泉に入る前までは、「どんな温泉なのであろうか?」「泉質はどうであろうか?」と空想力を働かせ、ものすごい期待で胸をふくらませるのであるが、一度浸かってしまえば、急にその情熱は冷めてしまい、納得すると同時にまったく興味がなくなってしまうのである。
この性分が温泉で出ているので私はまだなんんとか人間らしさを保っているのであるが、もし男女関係でこのパターンが出ていたとしたら、私はなんと呼ばれるのであろうか・・・
私が3回も訪問したことがある温泉は、日本全国に数ある温泉の中でも八甲田の温泉だけなのである。
もし、私がどこかの温泉と結婚しなければならないとしたら、本命の第一番は八甲田の温泉たちなのである。


一昨年の秋のことである。
東京のヒーリングワークの後の月曜日、私は事務所の目をかすめて朝一番の飛行機で青森へと旅立ったのである。
到着するとその足でレンタカーを借りて青森の温泉群をまわり、夜は八甲田の温泉に宿をとったのである。
2日目は朝からすばらしい秋晴れで、10月の中ごろだったにもかかわらず、紅葉が残っており、山々は一面に真っ赤に染まっていたのである。
なんというすばらしい紅葉なのであろうか!
紅葉を眺めながらの八甲田の温泉を回っていた私は、あまりにもすばらしい紅葉に、八甲田のロープーウェイに乗ってもっと紅葉を堪能しようと思い立ったのであった。
普段の私の温泉旅行は、まさに温泉だけの旅行で、どれだけ有名な観光地が近くにあろうが、立ち寄ることはまずない。
そんな私を動かすほど、八甲田の紅葉はすばらしかったのである。

八甲田山のロープーウェイ乗り場に行って、ロープーウェイ代金を払おうと財布を出そうとしたところ、いつもズボンの後ろのポケットにあるはずの財布がないのである。
「・・・・・・」
車の中に置いてたっけ?と思って車の中を探してみたが、車の中にもないのである。
「・・・・・・」
人間、厳しい現実とは向かい合いたくないものなのである。
私は事態がなかなか飲み込めなかったが、だんだんと自分の置かれている状況が見えてきたのである。
どうやら先ほどロープーウェーにくる前に入った日帰りの温泉宿で財布を取られた模様である。
ポケットの中にはわずかに小銭で560円があるだけ。
私は八甲田山中で全財産560円でどう生き延びればよいのであろう?
唯一の希望は、今朝、家族のお土産用に買っておいた12個のリンゴであろう。
宅急便で家に届く手配をしておいたのであるが、まだ集配されていなければ、これを食いつないで生き延びることができる。
まず、私がひらめいたのは、リンゴを取り戻すことであった。
今から思えばもう少し建設的なことを考えてもよさそうなものであるが・・・

私はさっそく、先ほどリンゴを買ったお店に車を向かわせたのである。
お店にの人に「あのーすいませんけど、先ほどのリンゴ、持って帰ってもいいですか?」と頼んだところ、けげんそうな顔はされたものの、リンゴと宅配料の1280円が戻ってきたのである。
ちょっぴりうれしい! しかし、クレジットカードも何もない、全財産1840円の私に何ができるというのであろう?

その後、ロープーウェイ乗り場に行く前に日帰りで立ち寄った温泉宿に、財布を捜すべく、一縷の望みを託して向かったのであった。
しかし、やはり財布はなかったのである。
温泉宿のご主人の勧めで、警察に届けるべく交番に向かおうとしたのだが、その交番ですらここから30kmも離れたところにあるのである。

交番に向かう30kmの道中で、私はこれからの八甲田での生き方を考えたのである。
秋とはいえ、八甲田の夜は寒かろう。
車の中で寝るか・・それともこの車で夜通しかけて東京まで走ろうか・・・うちに電話して現金書留でお金を送ってもらうことにして、その間、リンゴを食いつないで手持ちの現金が尽きるまで八甲田山中で温泉に入って過ごそうか・・・
そういえば、心霊スポットで有名な田沢温泉元湯というのがあると聞いたことがある。宿は十数年前につぶれたらしいが、温泉だけは出ていると聞いたことがある。ただ、夜になると青森第5連隊の亡霊が出ると言う有名な場所である。
どれを取ったとしても私にとっては究極の選択なのである。
仮にそんなところで温泉三昧をしたとしても、夜になったらイノシシやクマなどと遭遇するかもしれない・・・私は熊に勝てるだろうか?

などと悲壮な思いで交番にたどり着いたところ、なんと先ほどの温泉宿からの電話で財布が出てきていたことを知らされたのであった。
もちろん財布の中身の現金は全部なくなっていたのだが、キャッシュカードやクレジットカード、今日の青森発大阪行きの航空チケット、全部が無事だったのである。
宿のおじさんが、トイレの隅のゴミ箱に捨ててあるのを発見し、交番に電話をしていてくれたのである。
なんとありがたいことであろうか!

こうして私は、亡霊にとりつかれることもなく、熊と決闘することもなく、何とか大阪に帰ることができたのである。
12個入りのリンゴを持って帰るのは重たかったのであるが・・・

その夜、家で正座をさせられたのは書くまでもない。

2006年1月28日 00:00