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2006年2月 3日
平様貞操危機一髪

私は、転校生のブログにもで書いたように田舎者なのである。
今でこそ、大都会である大阪に出勤しているし、日本全国津々浦々、あっちに行ったりこっちに行ったりしているのであるが、18歳までは都会にすごい憧れを持った田舎者だったのである。

その私が都会に触れることになったのは、18歳で神戸市内にある予備校に通いはじめたときなのである。
受験に失敗した予備校生なのだから、日々勉強に励むのが正しい予備校生のあり方なのであるが、当時の私は、毎日大都会の神戸に行けるのがうれしくて「今日はどこに行こうか?」と毎日ワクワクしながら予備校に通っていたのである。

大都会・神戸の喫茶店は、さすがに私の生活エリアの中にあるダサい喫茶店とは違い、当時流行のインベーダーゲームなんかも置いてあったり、とにかく見るもの、触れるものが驚きの連続だったのである。
3時か4時ごろに予備校の授業が終わると、田舎者の友達同士で「今日はどこに探検に行こうか?」と毎日ワクワクした日々を送っていたのであった。

当時、とても健康的であった我々男子にとって、とても魅惑的なスポットがあったのである。
なんといっても、我々は18歳になっているのであるから、18歳未満立ち入り禁止と言われ、今まで入ることを許されなかった場所に堂々と行けるのである。
まずは手始めにパチンコなどに行ってみたのであるが、初心者の我々はもちろん勝てるはずもなかった。
ただでさえお小遣いが少ない我々が、毎日魅惑的な大都会の神戸に来ているのであるから、下手をすれば、一ヵ月分のお小遣いが数時間で消えてしまうパチンコ屋のようなところに行っていたのではたまったものではないのである。
みんなパチンコ屋にはだんだん足が向かなくなっていったのである。

18歳未満お断り、といえばもう一つ我々には、たいそう魅力的な場所があったのである。それは、当時一世を風靡していた「日活ロマンポルノ」なのであった。
田舎者の我々にとって「日活ロマンポルノ」はパチンコ屋の数十倍輝いていたのである。
我々は、最初は恐るおそる団体行動で映画館に通っていたのであるが、2ヵ月もすると、すっかり慣れてきて、各自の趣味趣向によって、それぞれの好みの映画館に単独行動で出没するようになったのである。

ビデオやDVDが普及している今でこそ、映画館の大半はまっとうな映画館であるが、当時の映画館は半分以上がロマンポルノ系の映画館だったのである。
そして、各々の男性の趣味趣向を幅広く網羅できるよう、各映画館が新旧織り交ぜた色んな作品を上映してくれていたのであった。


ある日、私は予備校の朝の授業をすっぽかし、新規開拓をすべく単独行動でとある映画館に行ったのである。
その映画館はとてもさびれていて、お客さんが20人ほどしか入っていなかったのである。
私は一心不乱に映画鑑賞をしていたのであるが、私が映画館に入ったときには私の座っている列には確か誰も座っていなかったはずであった。
しばらくしてふと気が付くと、いつの間にか私の座っている列の一番端に中年サラリーマン風のお客さんが座っていたのである。
そのときは、特に気にも留めなかったのであるが、またしばらくしてふと横を見ると、先ほどの男性が端からちょっと私の方寄りの席に移動していたのである。
そのときは、そのことに関しては別段何も思わなかったのであるが、チラッと横を見るたびにそのお客さんはどんどん私のほうに近づいてきていて、ついには私の3席隣のところに座っているのである。
「ん???」
何か嫌な感じがしたのである。
ひょっとして、金を出せ!とかいう類の人ではないだろうか?という一抹の恐れが生まれたのである。
それ以来、私は映画に集中できなくなってしまい、横目でその人のことをチラチラと気にするようになったのである。
しかしながら、この態度が後々大変な誤解を生むことになるとは当時の私はまったくわからなかったのであるが・・・
私がチラチラッと横目でその人を観察したところ、その人はどうも「金を出せ」というような悪い男性には見えなかったのである。
頭をきっちりと七三分けにしたややたれ目の、どう見ても人のよさそうな人で、ややぽっちゃり気味のどう見ても温厚そうな中年サラリーマンであった。

「ただの勘違いなのかなぁ?」と思い、また映画に集中していたところ・・・なんとその男性は私のすぐ隣の席に座ってきたのである。
「いくらなんでもこれは怪しすぎる!やっぱりこれは金をとられるんだ!」と私の中の危険信号は点滅していた。
もし「金を出せ」と言われたら、ダッシュで逃げようと心の準備をしたその瞬間、私の隣のその男性の手が、私のひざに触れてきたのである。
「やばい!」

もし、その男性が何か一言でも言ったなら、その瞬間にダッシュで逃げよう!
ナイフを出してこようものなら、当時剣道2段をもっていた私は手刀でそれをふるい落として引面の要領で逃げるのだ!と心の準備をした、その瞬間にその男は私の耳元でささやいたのである。
「なぁ、ええやろ」


私は、この言葉を聞いたとき、「なぁええやろ、さっさと金出せ」という意味だと誤解し、その男の顔をにらみつけながら、ダッシュで逃げたのである。
しかしながら、そのときの私の目に映ったのは、とろんとした眼差しと、伸びきった鼻の下、そしてエロティックな雰囲気の男の顔だったのである。
私は混乱しながらも、この情報を整理しつつ、この映画館を後にしたのであった。

その後、実はこの映画館は「ハッテン場」と呼ばれるホモ専門の出会いの場所として有名なところだったと知らされたのである。
そしてさらなる情報によると、相手が3席ほど近づいたところでもし自分のタイプでなかったならば、列を代わればそれは「あなたは私のタイプではないのよ」という合図になっているらしかったのである。
私はその男をチラッチラッと見たにもかかわらずその席に座り続けたのであるが、その行為は実は「あなたは私のタイプなのよ」という合図だったのである。
さらに、近づいてくる方は男役で、待っているほうは女役だそうなのである。
もし、あのまま私が固まって動けなかったとしたら・・・今頃、私はみなさんとは違う世界の住人になっていたかもしれない。

大都会は恐ろしいところだと思い知った平準司18歳の青春のときであった。


2006年2月 3日 19:03