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2006年7月15日
君が代を背負う者たち Part2

前回のブログを書いたところ、旅行業界にいるうちの受講生から、「よくぞ書いてくださった」と大絶賛された。
やはり、シングルユースのビジネスマンが宿泊をとばされるケースがよくあるそうなのである。
このシリーズは、一話完結で終わるつもりだったのだが、「ほかにはないの?」とおねだりをされ、おだてあげられていい気になってしまい、約束をしてしまったので、あえてパート2を書くことにする。


前回は、ホテルそのものに泊まれなくなる、という悪夢の話を書いたのだが、日本人は言葉の壁もあり、上手に苦情を伝えられないことでいろいろ損をしているようである。
私の経験上、一般旅行者が一番被害をこうむっているのが、ホテルのルームサービスだと思う。
国内外を問わず、ホテルのルームサービスを利用されたことがある方なら、注文の品が部屋に届くまでにすごく時間がかかった、という経験があるのではないかと思う。
しかし、海外ではさらにひどいようなのである。

ルームサービスで食事でもとろうか、という時間はだいたい、決まっているためか、どのホテルでもルームサービスへの注文は集中するようである。
ホテルマニアの私から言わせていただくと、ルームサービスというのは、金額の高いものが優先される。
続いてそのホテルにとってVIPなお客様からのルームサービスが優先される。
つまり、一般のお客さんよりもスイートルームに泊まっているお客さんのルームサービスの方が優先されるのである。

そして、次が大事なのだが、しつこく文句を言うお客さまのルームサービスも優先されるのである。
日本人は言葉の壁もあるのだろうが、ルームサービスが遅いと思っても、催促したり、「どうなっているのか」と苦情を伝えることは少ないようなのである。
よって、どの国のホテルでも、一番文句を言わない日本人のルームサービスが後にされる傾向が高いようである。


私は海外旅行では、ルームサービスは高くつくので頼むことはまずない。
ただし、例外として、あるひとつのものは、よくルームサービスを利用するのである。

それは、コーヒーなのである。

日本のホテルでコーヒーを頼むと、よほど気の利いた外資系のホテル以外は、コーヒーはカップに入ってやってくる。
がしかし、ヨーロッパのホテルでは、千円程度で、ポットに入ったコーヒーがやってくるのである。
5、6杯は飲めるので、割得感があるので、いつもついつい注文してしまうのである。

あるとき、いつものように私がポットコーヒーを頼んでおいしそうに飲んでいたところ、うちの奥さんがうらやましがったのである。
うちの奥様は紅茶党で、コーヒーはまず飲まない。
日本から紅茶のティーバックを山のように持ってきているので、紅茶を飲みたいところであるが、海外のホテルには、日本のホテルのように電気ポットがあることはまずないのである。
そのため携帯用の湯沸かし器は持参しているのであるが、私のようにいつでも飲めるようにポットに入ったお湯が欲しかったようである。
そこで、ルームサービスで、沸きたてのお湯をポットに入れて持ってきてもらうことにしたのである。
このときのホテルは、前回のブログで書いたあのスイスのジュネーブ駅前の四つ星ホテルであった。

さっそくルームサービスに、ポット入りのお湯を頼んだのであるが、20分経過しても届けられないのである。
たかがポット1杯分のお湯なのであるから、持ってこようと思えば5分もあれば来れるはずだが、20分経っても来ないところを見ると、ルームサービスは大忙しのようである。
そして、ややこしい料理が優先され、この簡単な注文は後回しにされているのである。
放っておけば、どれくらい待つかわからないし、最悪の場合、忘れ去られてしまう恐れがあるので、ルームサービスに電話してみたのである。

日本の出前の督促と同じで、私が問い合わせると、「もう出ております」という答えが返ってきたのであるが、さらに15分経ってもポットのお湯は届かないのである。
ホテルの中でルームサービス係が迷子にでもなっているのであろうか???
このあたりでタマールさまが降りて来られたので、私は「ちょっと行ってくるわ」と部屋を後にしたのである。
ルームサービスの調理室がどこにあるのかわからないので、まずはフロントに行き、事情を説明して、ルームサービスの部屋に連れて行ってもらうようにお願いした。
フロントマンは当然ながら「誠に申し訳ございません。直ちにそちらに向かうようにいたしますのでお部屋でお待ちください」と言うのである。
そこで私はこう言ったのである。
「15分前に出ているはずのルームサービスがやって来ないということは、彼はきっとこの大きなホテルで迷子になっているか、遭難しているに違いない。2人めの遭難者を出すのは申し訳ないので、私が行かせてもらいます」
精一杯さわやかに、にこやかに言ったので、フロントマンも渋々ではあるが、私をルームサービス用の調理室に連れて行ってくれたのである。

そこはまさに戦場であった。
フロントマンがルームサービスの担当責任者に事情を話したところ、彼は「ただ今からすぐにお持ちいたしますので」言ったので、私はさわやかにこう言ったのである。
平:「僕が注文したのは、ボイルドウォーター(沸きたてのお湯)なんだけど、うちの奥さんは、紅茶を飲みたくてずっと待っているので、今は彼女自身がボイルドなんだよね。わかってくれるかなぁ?」
ホテルマン:「な、なるほど、お察しいたします」
平:「今、君が持って行ってくれるとしたら、そのお湯は紅茶用なんだけど、たぶん君の頭に注がれるリスクがあるんだよね。わかる?」
ホテルマン:「なるほど、察します」
平:「でね、僕はお湯をかけられるのに慣れているから、僕が持って行く方が君の安全のためにもいいと思うんだよね。わかる?」
ホテルマン:「なるほど、理解いたしました」

ということで、私は彼からお湯を受け取ったのであるが、その場でじっとしていたのである。
ホテルマン:「ほかに何かございますでしょうか?」
平:「普通、ホテルではものをお願いするときは、チップがいるよね」
ホテルマン:「え?」
平:「1スイスフランにしといてあげるから、ちょうだい」
と手を差し出したところ、そのホテルマンから1スイスフランをもらえたのである。
平:「そうそう、これから僕のことをミスターチップマンと呼んでね」
と1スイスフランをチップとしてもぎとり、部屋に帰っていったのである。

ホテルマンの仕事は、とても忙しいのであるが、ルーチンワークなのでとても退屈な仕事でもあるのである。
わけのわからない日本人からチップを巻き上げられたという話題は、ホテル中をかけめぐったようである。
次の日の朝食時、私はタキシードを着たとても偉い感じのホテルマンからあいさつを受けたのである。
「ミスターチップマン、昨日の夜は当ホテルのルームサービスでたいへん失礼なことがあったようで、申し訳ございませんでした」
彼の長いホテル人生の中でも、客からチップをとられた経験はきっとなかったに違いない。
悔しそうな彼の笑顔に、してやったりと思う私であった。
しかしながら、このままではただのセコイ日本人になってしまうので、「昨日はとても楽しませてくれてありがとう」と言って、あのルームサービス係の責任者に10スイスフランのチップを渡してもらうよう頼んだのであった。

しかし、よく考えてみれば私はあのタキシードのホテルマンにしてやられたのかもしれない。
ヨーロッパのホテルは奥が深いようである。


2006年7月15日 00:00