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2007年10月13日
見栄っ張りの末路 Part3

昼豚ホテルのジュニアスイートルームで快適な休日ライフを過ごすはずだったのであ
るが、最新式といえば最新式なこの部屋で、私は悪戦苦闘していたのである。
スタイリッシュというよりも、まるで忍者屋敷のようなのである。
一日の締めくくりとして、アワアワのお風呂を楽しんだ私だったのである。
しかしながら、バスタブからどうしてもお湯を抜くことができず、ついに本日2度
目、客室係に来ていただくことになったのである。

「たびたびすいませんね。どうしてもバスタブからお湯が抜けないんですけど、どこ
をさわればお湯が抜けるのでしょう?」

この時点で、客室係にはまだまだ余裕があったのである。
お風呂のお湯をためる蛇口の裏に、洗面台同様、ひっそりこっそりとバスタブの底の
栓を動かすスイッチがあるのである。
しかしながら、お湯をためるとき、これがきっとそうだと思って動かしたのである
が、バスタブの栓はピクリとも動かなかったのである。
仕方がないので、無理矢理、バスタブの底の栓を押して閉めたのである。


客室係が悪戦苦闘するも、まるで栓は動かないのである。
みるみる青ざめる客室係の顔。
その横で、みるみる青ざめる私の顔。
「無理矢理、閉めたからかなぁ‥‥」

しかしながら、そんなことを悟られてはいけないのである。
しかしながら、「お湯をためるときは、どうされたのでしょう? このスイッチで操
作されたのですか?」と聞かれたら、私は窮地に追い込まれたのであるが、客室係に
はどうもそこまで余裕がなかったとみえる。
悪戦苦闘しながら、ただただ「なんとか早くお客さまのためにお湯を抜かねば」と思
われたようで、最終手段に打って出たのである。

なんと、私がしたのと同じように、湯船に手を突っ込み、無理矢理あのポッチを手で
引っ張り上げ、お湯を抜いたのである。

私はお湯さえ抜ければそれでよかったのであるが、客室係から「まことにすみません
が、設備の者を呼んでまいりますので、しばらくお待ちください」と言われたのであ
る。
時間は11時を過ぎていたのであるが、私はマッサージをしてもらってから寝ようと思
っていて、ちょうどマッサージさんが来る時間だったので、「いいですよ」と快く応
じたのである。

ところが、である。
私は基本的にマッサージをしてもらいながら寝たい人なのである。
しかしながら、ホテルの設備係の人だけでは手に負えず、さらに業者の人が呼ばれ、
業者の人も手に負えなかったのである。
どうもワイヤーが切れてしまっていたようなのである。
そして、そのうち、ナイト・マネージャーと呼ばれる夜担当の支配人まで現れ、私の
部屋はまるでお祭り騒ぎなのである。

ふだんなら、マッサージを終え、爆睡している時間なれど、人間、こういう事態にな
ると、なんの役にも立たないのであるが、状況を見極めたいのである。
私の担当のマッサージさんも、マッサージが終わったにもかかわらず、私と二人、あ
あだこうだと意見を述べあいながら腕を組んで見守っていたのである。

結果、バスタブを一度外さねば修理ができないということになり、こんな夜中に「部
屋を移ってくれ」などと言われたのである。
しかしながら、「明日の朝はシャワーブースを使うので、浴槽にお湯がたまらなくて
もよい」という旨を伝え、なんとか夜中の引っ越しは勘弁してもらったのである。
そんなこんなで、一同はようやく私の部屋から出ていってくれたのである。

「ま、いろいろあったけれど、さて、いまからゆっくり爆睡しようか」としていたと
ころ、またもや問題が起こったのである。
高級ホテルには、ベッドサイドにランプが必ずついている。
なんと、どこのスイッチをさわっても、このランプが消えないのである。

たかがランプ、されどランプ。
まぶしいのである。
寝れないのである。
しかしながら、たかがランプ1個消すために、もう一度客室係を呼ぶのには勇気がい
るのである。

私は20分も一人でがんばったのである。
しかし、ついに客室係に電話したのである。
「ほんとうにたびたびすいませんが、ベッドのサイドランプが消えないんですけど‥
‥」

私も恐縮して電話したのであるが、客室係は私以上にもっともっと恐縮しているので
ある。
なんと、こんどは客室係にさきほど登場したナイト・マネージャーまでもが同行して
きて、3人でいろんなスイッチを押したのであるが、やはり消えないのである。

そして、ついに、客室係が見つけてくれたのである。
サイドランプの下に、小豆ほどの大きさの、けっしてだれにもわからないであろうス
イッチがあったのである。
これをオフにしないかぎり、ベッドサイドのスイッチをどれだけ押そうと電気は消え
ない仕掛けになっていたのである。

なんとか電気は消えたのであるが、恐縮したナイト・マネージャーは私にこう言って
くれたのである。
「重ね重ね失礼いたしました。おわびとして、冷蔵庫のドリンクはすべて無料にいた
します」
「やったー!!」という心の声を抑圧し、無表情で「あ、それはどうも‥‥」と応対
したのである。

といっても、次の日、チェックアウトする前までに、いくら無料ったって、コーラ
1本とビール1本しか飲めなかったのである。
もちろん、それ以外の冷蔵庫にあるものすべてをトランクに詰めて持って帰るという
選択もあったのであるが、見栄っ張りの私は、ビクビクしながら冷蔵庫の中にあった
ビールとオレンジジュースを1本ずつトランクの中に詰め込むのが精一杯だったので
ある。

もちろん、「もう1本ぐらい、もらってもよかったのではないか」と、その後2週間、
後悔したのは書くまでもない。

2007年10月13日 11:46